効果とリスクを知ろう:外科矯正について

術前のシュミレーション_sig

外科矯正が向いている方

顎の骨を切って大きく顔を変える外科矯正は矯正歯科単独では不可能な「短期」で「大きく」顔を変えられることが魅力的です。ですので、自分の顔が嫌で仕方ない方や短期で顔を大きく変えたい方で全身麻酔や両顎手術のような外科手術が怖くない方に向いています。

また、矯正治療では不可能な方向に顎を動かさないと患者さんの悩みが解消しない場合にも外科矯正を考えます。

外科矯正が向いていない方

逆に2mm程度の微妙な変化や外科手術が怖い方、時間をかけて矯正歯科治療単独で治せるものは治したいという方は外科矯正する必要はありません。特に現在では歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正歯科治療では外科矯正に匹敵するような顔の変化が得られる治療も可能になっています。例えば、抜歯スペース分まるまる後退させてセットバックと同程度に歯だけでなく歯槽骨・歯肉とともに下げることも可能ですし、上顎歯列を圧下させてルフォー+SSROの両顎手術のようにガミースマイルや下顎のオートローテーション、オトガイを絶対的に前に出す、口ゴボの改善をすることも可能です。

矯正歯科治療で動かしたときの利点

外科手術と違い矯正歯科治療では歯の移動とともに歯根周囲の歯槽骨も一緒についてきます。 上顎歯列を上げる際に上顎骨自体を移動させないため鼻の変形が見られないことは大きな違いです。また、口ゴボを治す際、前歯を後退させるときにもセットバックと違って矯正歯科治療では毎月の調整時に患者さんの口元の好みを聞きながら後退量を調節することができます。

さらに、矯正歯科治療で顎を移動させる治療では、付着している筋肉をゆっくりと引き伸ばしていきますので術後に筋肉に引っ張られることによる後戻りの力が弱くなるのですが、外科矯正で顎の移動が大きい場合、顎骨に付着する筋肉も一気に引き伸ばされますので矯正歯科治療単独での顎の移動と比べると後戻りのリスクが高いと考えられます。

保険適用される外科矯正について

咬合に問題がある場合には顎変形症と診断され健康保険が適用されます。この保険適用される外科矯正の第一の目標は正常な咬み合わせを達成することです。ですので、実際には顔の美容面も大切なわけですが 、正常な咬合が達成されれば術後にガミースマイルだろうが面長だろうが失敗とはみなされないわけです。以下に保険適用される場合の外科矯正の流れを述べます。

術前矯正

外科矯正が保険適用されるとまず表側の矯正装置で術前矯正を行い顎の骨切り手術に備えます。手術の時にある程度噛み合うように矯正治療を行うことで術後の安定性が高まるようにしたり、手術直後の歯並び咬み合わせまで良くなるように最大限の矯正歯科治療を行うので2年程度かかります。どのような矯正治療をするかと言えば、驚くかもしれませんが顔をより悪くする方向に動かします。これを「デコンペンセイション(decompensation)」といいます。例えば受け口で下顎が出ている患者さんなら、下顎前歯を前に出し、上顎前歯を後退させることでより一層の反対咬合を作るのです。それを手術で顎の骨をルフォーⅠ型やSSROで切って下顎を大きく後退させます。この方法では術前矯正で口輪筋や頬筋など顔の筋肉に逆らって歯を動かさないとならないため矯正治療が非常に大変で時間がかかり、筋肉の力を超える矯正力を使わないといけないので強い矯正力で動かす矯正になりがちです。

骨切り手術

矯正歯科医・外科医双方がシュミレーションを行い患者さんと外科医、矯正歯科医の意思疎通を図ります。担当の外科医から神経の麻痺や腫れなど手術に伴うリスク説明も受けすべて了解をした上での手術になります。手術後は1週間程度入院し、2か月くらいは後戻り防止のために上下顎にゴムかけをし、あまり硬い物を噛まないように指示されます。

先ほど述べましたようにルフォーⅠ型やSSROなどの骨切り手術では術前にシュミレーションをしますが、現実は外科矯正が成功するかどうかは執刀する外科医の腕に大きく左右されます。さらに美的センスも大切です。つまり、術前のシュミレーションを良い方に上回るような手術を実現するような外科医と出会えるかどうか。そのような稀有な形成外科医あるいは美容外科医を探すのは私も大変でしたが患者さんはもっと大変だと思います。

術後矯正

術後1か月程度してから矯正歯科治療を再開します。たとえ術前矯正を行っていたとしても手術直後に完全にかみ合っていることは稀ですので、咬み合わせや個々の歯の微調整を行うために術後矯正を1年程度行ってからワイヤーを外し保定期間に移行します。ですので保険適用の外科矯正は通常3年はかかります。

保険適用される外科矯正で使用される矯正装置について

保険が適用される外科矯正では矯正歯科治療で使用できる装置が決まっています。それは表側の装置だということです。ですので、もし裏側矯正で両顎手術などの外科矯正を考えているなら自費治療になります。

顔を早期に整える外科矯正「サージェリーファースト」について

先ほども述べましたように保険で行う術前矯正は悩んでいる顔立ちをより悪くする治療期間ですので嫌がる患者さんも多いのが現実で、より悪くなった顔で外科手術までのかなり長い間辛抱して過ごすことになります。そこで、術前矯正を必要最小限にとどめ、早期に外科手術を行って顔を整えてから、術後矯正治療でじっくりと噛み合わせや歯並びを矯正治療する「サージェリーファースト(surgery first)」という方法があります。

サージェーリーファーストが可能になった背景には骨を切った後に固定しておく器具(チタンプレート)が浸透し術後の安定性が増したためです。昔は『囲繞結紮』といってワイヤーでくくって止める方法がメインでしたので術後の安定性が悪く術前矯正で噛み合わせを整えてから手術するほうがうまくいっていたのです。

経験上、早期に外科手術で顔を変えると、患者さんの満足が得られやすいと感じています。やはりより顔が悪くなるように矯正する術前矯正が長いと特に成人女性にとって嫌がられるのだと思います。サージェリーファーストでは術前矯正が無いか、あっても必要な矯正治療だけを行い術前矯正を終了して外科手術を行うため全体の治療期間が短かくなる傾向があります。術後矯正の歯の移動も唇や頬などの筋肉が押す力に逆らって動かすことがなくなるので動きもスムーズです。さらに、裏側矯正などの目立たない装置も選択することもできるため矯正治療中も矯正装置が見えにくくなります。

サージェリーファーストのリスク

サージェリーファーストで外科矯正を行うことが増えてきましたが、サージェリーファーストで術前矯正を全くしないでうまくいく場合と術前矯正をある程度やってから骨切り手術をした方がよい場合があります。サージェリーファーストのデメリットは手術直後に咬合が不安定になるということがあります。特に上下歯列弓幅径があまりにも違っている場合や、上顎が傾いているカントのある患者さんで臼歯部の垂直的な高さに左右差がある場合には、サージェリーファーストで術前矯正を全くしないででやると咀嚼することで術後の顎骨の変位が見られやすいので私は歯科矯正用アンカースクリューを併用して矯正治療で幅や位置を正してから外科手術を行います。

サージェリーファーストでも術前矯正をしたほうが良い場合

私の場合、サージェリーファーストでも術前矯正を全くしないわけではなく、顔が美しくなり術後の安定性が高まるなら必要なだけ最小限に術前矯正を行います。

例えば、歯科矯正用アンカースクリューを併用して大臼歯の圧下を行い外科手術の限界を超えて下顎の時計回りの回転を実現したい場合には術前矯正を行います。他にも、顔が左右非対称で臼歯の垂直的な高さの左右差があったり、上下臼歯の幅径があまりにも合っていない場合には術後に食事中の咀嚼運動から顎の歪みが起こる可能性があるため術前矯正を行います。現在は大人でも上顎骨から拡大できる急速拡大装置もあるので上顎がかなり狭くても拡大することが可能です。

私が手術も考える顔の変形の一つに左右非対称の度合いが強く、特に下顎が大きく左右に偏位している場合があります。 上顎骨から傾いている”カント”がある場合には、軽度であれば外科手術なしで矯正歯科治療だけで改善できますが、特に下顎の偏位が大きい患者さんで手術が怖くない場合には外科矯正も考えます。私は上顎のカント修正と歯軸のデコンペンセイションならびにガミースマイルを術前矯正で歯科矯正用アンカースクリューを併用しながら正す技術がありますので上顎のルフォーⅠ型骨切り手術をせずに下顎のSSROだけの手術プランにすることがあります。両顎手術と比べ下顎単独の手術プランとしたときのメリットは、費用面はもちろんですが、上顎臼歯の正確な3次元的な位置決めができる、上顎のルフォーⅠ型手術による鼻の変形の回避などがあります。

このような理由から、当院では術前矯正を全くしないサージェリーファーストにこだわるのではなく、最終的に術前矯正をした方が患者さんの顔が美しくなり、術後の安定性が高まる場合には必要最小限に術前矯正を行います

骨切り手術後の術後矯正

術後矯正はどのような骨切り手術を行ったとしても必要です。例えば必要ないと考えられがちな上下前歯を後退させるセットバック手術(分節骨切り)であっても術後に矯正治療をしないと、笑ったときの歯並びの美しさの観点からは骨切り線のところに段差が生じるため歯列の連続性が失われますし、咬み合わせの観点からも犬歯が正常な咬合状態にないため犬歯誘導が機能しないので顎が疲れやすくなるなどの問題が出てきます。このように術後矯正は骨切り術後の歯並びと咬合を整える目的がありますが、それ以外にもアンカースクリューを利用して骨切りによる後戻りに対抗するようなゴムかけを行ったり、顎骨自体に矯正力を作用させて骨切り術後の顎骨の微調整も行います。

サージェリーファーストによる両顎手術(ルフォーⅠ型+SSRO)を行った再治療症例

症例の概要

他院で矯正歯科治療をしたが、口元が後退しすぎて下顎の突出感が目立ってきたため、外科矯正で顔を大きく変えて下顎をとにかく下げることを強く希望され当院へと転院された患者さんです。他院ですでにワイヤーと装置を付けて矯正治療が終盤まで進んでいたため、厳密にはサージェリーファーストではないが、上下顎歯列幅径が許容範囲内にあり、左右非対称性も認められなかったためルフォーⅠ型+SSROの2-Jaw Surgery(両顎手術)をサージェリーファーストで外科手術を行って顎の位置を平均値に近づけた後に術後矯正で術後の咬み合わせを整えた。

以下に骨切り手術術前に行ったシュミレーションを示す。患者さんは下顎を大きく下げることを希望され、また、上顎前歯が見えないので笑った時に歯が見えるようにしてほしいということも希望された。そのため、シュミレーションでは上顎をルフォーⅠ型で後方を上げずに時計回りの回転を行った。

以下に実際の骨切り手術術後と術前シュミレーションとの重ね合わせを示す。
私が信頼する外科医の腕と美的センスにより若干ですが、術前のシュミレーションを良い方へと上回る結果となっていることに注意されたい。患者さんの悩みである下顎の突出をさらに後退させながらEラインに近づけて実際の手術を行ったことが分かる。

術前のシュミレーション_sig
術前のシュミレーションと実際のセファロとの重ね合わせ_sig

術後矯正は骨切り手術後約3週間で歯や骨の矯正治療の加速期間であるRAP(
regional acceleratory phenomenon )現象を利用しながら矯正歯科治療を開始した。上下顎に打ったアンカースクリュー同士で顎間ゴムをかけてもらって顎骨の後戻りに対処しながら、上下歯列には上下歯列の前後的位置関係を合わせるような顎間ゴムを患者さんに使ってもらった。患者さんは下顎が大きく下がり、さらに笑った時に歯が見えるようになり、鼻翼基部も前に出て術後の顔に非常に満足されていた。

本症例のリスク:外科矯正の基本的なリスクとして知覚麻痺や腫脹があり、上顎の移動方向・移動量によっては鼻の変形があります。入院が1週間程度必要です。矯正治療のリスクに関しては、歯磨きがしにくくなる、歯根吸収が起きうる、装置によっては発音に影響が出る、食事に制限が入る等 詳しくは https://facetalk.jp/risk-orthodontic-tx/ 
費用:矯正歯科における平均約100万円、外科処置に関する料金は両顎手術は約200万円 当院が外科矯正手術を依頼している東京警察病院の詳しい費用ならびに当院の詳しい費用は https://facetalk.jp/treatment-costs/
期間:約2年 https://facetalk.jp/treatment-costs/

※当院では自費治療による外科矯正のみを行っております。咬合に問題がある患者さんは保険適用の外科矯正もお考え下さい。

※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。

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