歯科矯正用アンカースクリューを使った矯正歯科治療
小さなチタン製のネジ(歯科矯正用アンカースクリュー)を使うことで従来では治療が不可能だったり、口元が出ていて下げたいのに下がらないといった技術的な限界に起因する問題が減りました。この歯科矯正用アンカースクリューはチタンでできており、ミニインプラントとも呼ばれることがありますが、歯がなくなった時に入れるインプラント(デンタルインプラント)とは全く性質がことなりますので注意が必要です。
歯がなくなった時に入れるデンタルインプラントとは
デンタルインプラントは歯を失ったときに骨の中にチタン製のネジを埋め込みその上に差し歯をかぶせるというものです。いわゆる本物の歯の代わりとなるインプラントです。虫歯やケガなどなんらかの原因で歯が無くなってしまった場合には無理して歯を動かしてスペースを埋めるのではなく、インプラントを入れたほうが良い場合があります。前歯がない場合には隣の歯を矯正で動かすこともできますが歯の形が違うためあまり綺麗ではありません。また、6歳臼歯と小臼歯など2本以上を失ってしまっている場合などは巨大なスペースが空くためこれを矯正治療で埋めるのは時間がかかりすぎます。
骨と強固に融合するデンタルインプラントは矯正治療で動かすことが出来ません。そのため、デンタルインプラントを入れることが分かっている場合は治療の全体的な方針をまず矯正歯科で行い、多くは矯正治療後に必要なスペースを確保してインプラントを立てます。最初からデンタルインプラントを入れてしまうと動かせないのでそのデンタルインプラントの位置に他の歯の位置を合わせざるを得ず矯正治療が制限されてしまうのです。
歯科矯正用アンカースクリューとは
一方、歯科矯正の治療中に使用する歯科矯正用アンカースクリューがあります。先ほどのデンタルインプラントと比較してかなり小さなチタン製のネジを歯と歯の間などの歯槽骨や口蓋に立てます。これは歯を動かすために使用し、このネジにゴムやバネなどをかけることで歯に力をかけて動かしていきます。このアンカースクリューは矯正歯科治療が終わった後は撤去しますので一時的なもので使い捨てです。歯科矯正用アンカースクリューはもともとは顎骨の手術の際に骨片を固定するために使われていたものでした。すでに海外では矯正治療への応用が頻繁に行われており、国内でも適用外使用で矯正歯科医の裁量で使用されてきましたが、2012年7月に厚生労働省から矯正歯科治療時の固定源としての使用への適用が認可されました。
歯科矯正用アンカースクリューの主な利点は従来の矯正治療では不可能な方向に力をかけることが出来る点にあります。笑った時に歯茎が見えすぎるガミースマイルやスマイルが傾いているカント修正などの治療は従来は全身麻酔下でのルフォーやSSROの骨切り手術でした。また、いわゆる口ゴボで口元が突出している患者さんは抜歯してから前歯を後退させるのですが従来の下げ方と比較すると安定して歯茎から後退させることができます。
つまり歯科矯正用アンカースクリューを使用することで矯正治療単独で直せる範囲が広がったのです。歯科矯正用アンカースクリューを打つ場合には、スクリューを使わない矯正歯科治療でできないところはもちろん外科矯正でないとできない動きを見極められるだけの学習と経験がないと歯科矯正用アンカースクリューを打っても打たなくても効果が変わらないということになります。また、事前に歯科矯正用アンカースクリューのリスクとメリットについても良く知っておいてください。
歯科矯正用アンカースクリューのメリット
歯科矯正用アンカースクリューを使用するメリットは、従来の非外科の矯正治療では得ることが困難であった治療、例えばガミースマイル治療で前歯を上へ圧下したり、咬合平面が左右に傾いている場合や開咬の患者さんの奥歯を圧下する際や再治療などですでに抜歯されており抜歯する歯が残ってないがそれでも歯列を後ろに移動させる必要がある場合などにスクリューを固定源として安定して動かすことができるようになることです。さらに出っ歯や口ゴボなどで前歯を後ろに引っ込める従来の矯正治療においても抜歯スペースを最大限に使って引っ込めることができるようになりました。従来は前歯を引っ込めるときには奥歯を固定源として前歯と奥歯で引っ張り合いをしていたため奥歯が多少なりとも前に移動していたのですが、歯科矯正用アンカースクリューから前歯を引っ込めると反作用で奥歯が前に移動しなくなるためです。これを絶対固定といい、従来の矯正治療では現実的にほぼ不可能な固定法だったのです。
ガミースマイルの改善や口ゴボの改善だけでなくこのアンカースクリューを使って顔を短くする治療も可能です。従来ですとルフォーⅠ型骨切りとSSROの両顎手術が必要だったのですが、時間はかかりますが矯正治療単独で下顎の反時計回りオートローテーションを行うことができます。この治療は診断だけでなく高度な知識と技術が必要ですので先生選びは本当に注意してください。
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歯科矯正用アンカースクリューのリスク(注意点)
アンカースクリューの清掃法
意外かもしれませんが歯ブラシが歯科矯正用アンカースクリューにゴシゴシ毎日当たると外れやすいですのでアンカー周囲は優しくワンタフトブラシをなでるように当て、クロルヘキシジンなどの殺菌剤を成分に含むうがい薬とともに衛生状態を管理してください。また、大きく固い食べ物は歯科矯正用アンカースクリューの露出部分に強い力がかかり脱落の原因となり得ますので小さく切って食べるようにしてください。
歯科矯正用アンカースクリューの痛み
歯科矯正用アンカースクリューを植立する際は植立部位に表面麻酔を塗布した後、局所麻酔を行うため植立中の痛みはほとんどありません。局所麻酔が切れたときに疼痛がある場合があるので念のため痛み止めを処方します。また、感染のリスクも少ないとはいえ否定できませんので抗生物質を3日分程度処方しています。矯正治療中も歯科矯正用アンカースクリューに矯正力をかけたことが原因で植立したところが痛むことは通常ありません。植立した歯科矯正用アンカースクリューの撤去時には、ほとんどの場合、局所麻酔を行うことなく除去することも可能です。ドライバーを逆回転させて撤去しますがこの時にわずかな痛みを訴えることがあります。この場合には必要に応じて表面麻酔や局所麻酔を追加していきます。歯科矯正用アンカースクリューを撤去した後の穴は撤去後徐々に閉鎖してきます。
咬合痛
植立後、咬んだ時に痛みが生じるようであれば歯科矯正用アンカースクリューが歯根に当たっている可能性が高いので現在のミニスクリューを撤去し、再度歯科矯正用アンカースクリューを植立します。
破折、動揺、脱落
歯科矯正用アンカースクリュー植立時の平均成功率は86.3%と言われており歯科矯正用アンカースクリューの破折や脱落の可能性があります。その場合には植立場所の変更や代替の治療法を適用せざるを得ない場合があります。また必要に応じて提携病院を紹介するなど適切な対処をします。植立後も感染など何らかの原因で歯科矯正用アンカースクリューが動揺する場合があります。動揺が大きい場合にはそのミニスクリューを撤去して再度ミニスクリューを植立します。
最新のアンカースクリュー?
歯科矯正用アンカースクリューは一つだけではなく、たくさん種類があります。未熟な矯正専門医は最新の装置だからうまく治ると考える傾向がありますが、うまい先生は患者さんの悩みをもっともよく解消できる装置を知っているため、新しかろうが古かろうが使うだけです。この歯科矯正用アンカースクリューも最新だからいいというような風潮がありますが、歯科矯正用アンカースクリューを使いこなせている先生なら最新だからという理由だけで自分の治療に導入しないでしょう。さらに毎年のようにアンカースクリューは新製品が発表されているので1年経つともはや最新ではありません。また、このアンカースクリューもインビザラインと同様にメーカーが売りたい装置の一つですので、その営業に関係なく冷静に判断して治療に必要かどうか判断するのは担当医の学習能力にかかっていると言えるでしょう。どのような医療でも同じですが治療がうまくいくかどうかは先生次第です。
※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。