スマイルの美の基準と傾いたスマイル(カント)の治療

渡ったときに片方の歯茎だけが見えるカント

スマイルの美しさの基準

魅力的で美しいスマイルはアメリカのオバマ大統領のように選挙に勝利する確立を上げますし、ビジネスにおいては商品を売りその会社の売り上げを向上させる確率を高めます。現在の社会情勢を考えるとこのような人間本来持っている感情に訴える力を引き出して売り上げや成功を達成する手段は男性も女性も今まで以上に重要となってきています。

魅力的な顔と平均的な顔では前歯の見え方の違いでスマイルに対する影響が違ってきます(性差による魅力的な顔と平均的な顔について)。2011年10月号AJODOの論文によると、魅力的な顔を持つモデルでは

  1. 女性のモデルではスマイルラインのカーブがより大きいほうがその顔立ちを引き立たせるが、男性についてはあまりカーブが強調されないほうがより魅力的
  2. 上顎の歯の正中が顔の正中に対してずれると魅力が下がる

と述べられています。

一般に目標とする好感度の高いスマイルの見え方があります。スマイルはスモール・ミディアム・ラージの3つに分類されますが、笑顔を判断するときにはミディアムスマイルで判断します。スモールはいわゆる「微笑み」のことです。一方、ラージは大笑い、爆笑時の笑顔です。それらの中間であるミディアムスマイルをした時、上の歯並びに沿って下の唇が沿っていると好感度の高い笑顔に見えます。

スマイルラインのカーブを強調すると女性らしさが出る

笑ったときの上顎前歯の円弧をスマイルラインといいますが、スマイルラインが女性では緩やかな弧を描くほど女性的な魅力が高まり、水平でまっすぐになるほど男性的な印象になります。これは一般的に女性は下顎が男性ほど成長しないため咬合平面(上下歯列の噛む面)が前下がりになることからきています。

スマイルラインは円弧(スマイルアーク)のカーブが強調されるとより女性的な印象を与えますので平均的な顔より女性的特長が強調された顔であればスマイルラインが強調されても調和しそうです。これとはまったく逆に、男性的な魅力を持った顔であればではスマイルラインを平均より少し平坦化したほうがより男性的な魅力を高めると思います。

なので、ガミースマイルを治すときには前歯4本だけを上げて治すのではなく、女性であれば歯科矯正用アンカースクリューを使って前歯全体を上げてスマイルのカーブを付けて治すほうが女性らしさが表現できます。スマイルアークをつけるために必要なら奥歯も上げて咬合平面を前下がりにすることも行います。

笑ったときに上の歯が見えない場合

上の歯がスマイル時に見えると明るい印象がありますし、下の歯を見せて笑うと年を取っている印象になります。人間歳を取ると表情筋が重力に逆らえなくなるので笑っても上の歯が上唇に隠れて段々見えなくなって下の歯だけが見えるようになってきます。普段から上の歯が見えるように意識してスマイルしていると表情筋の老化が抑えられ同じ年代の人よりも若く見えます。

このように笑っても上の歯が見えないと年取った印象になるのと、あまり好感されないスマイルになるので生まれつき笑っても上の歯が見えない方やルフォーなどの骨切り手術後に上の歯が見えなくなった場合には歯科矯正用アンカースクリューを用いて下の前歯を圧下させ上の前歯を挺出(伸ばすこと)して上の前歯が笑った時により見えるようにする治療プランを立てることもあります。

笑ったときに歯茎が見えすぎる場合

逆に、ミディアムスマイルでも歯茎が2mm程度見えている分には問題ないのですが、それ以上に歯茎が見えるようですと本人が歯茎を気にするようになってきます。このような状態を専門用語でガミー(歯茎の)スマイルといいますが、口唇が短かったり、上の顎の骨が下方向に発達しすぎている、または歯茎の歯肉が長いために歯茎が見えすぎてしまいます。ガミースマイルも歯科矯正用アンカースクリューを使って好みの程度まで前歯を上げて治します。

歯茎の高さの基準

歯茎の高さの美しさの基準にについて見てみましょう。先ほど述べましたように、スマイルを診断するときは”Social Smile”と呼ばれるミディアムスマイルで判断します。理想的には右図のように2番目の前歯(側切歯)の歯茎が両隣の歯よりもやや下がっているのが理想です。

頬壁(バッカルコリダー)について

頬壁(バッカルコリダー)

頬壁(バッカルコリダー)とはミディアムスマイルのときに歯列と口角の間にできる空間です。この空間を増やしたり少なくすることでより美しいスマイルが達成されます。アメリカの女優のジュリアロバーツさんはこの頬壁が少ないいわゆるハリウッドスマイルと考えられます。一方、日本では頬壁がある程度あって笑ったときに口角に影が見える方が好まれる傾向があります。

頬壁はスマイル時の第一小臼歯と口角で作られる三角形の影ですが、これを少なくするには臼歯部は広く拡大されていなくてはなりません。非抜歯治療は口元の突出を改善することは難しいですが、歯列は広くなりバッカルコリダーは見えにくくなる傾向が強いです。一方、口元が出ている方は抜歯矯正になりますが、歯列の幅は一回り小さくなります。なので、抜歯矯正でもバッカルコリダーもなるべく見えなくしたい場合には拡大装置で歯列を拡大する治療プランを立てることもあり、現在は成人でも上顎骨から拡大できる装置(MSE/MARPE)もあります。

歯列弓の形について

ミディアムスマイル時には上の前歯が見えますが、その前歯6本の幅の比率が黄金比になることでより美しくなります。歯自体の大きさも大事ですが、まず歯列の形が適切である必要があるのです。つまり、歯列の形があまりに四角すぎても三角すぎても黄金比を達成することができないのです。図の3つ並べた歯列の真ん中のかまぼこ型がもっとも前歯の黄金比を表現できます。

正中について

矯正治療では歯の大きさや奥歯の位置に左右差があるとその程度に応じてズレてきます。これを補正するために顎間ゴムをかけたり歯の大きさを左右対称にしたりする処置をすることがありますが、多くの場合大きな正中のズレがない限り問題となりにくいです。大きな正中のズレは大きなスペースが必要なので抜歯も考えないとならないこともあります。

次に述べるカントがある方は上顎から傾いているので顔面正中に対し前歯が斜めになっていることもありますが、歯科矯正用アンカースクリューを用いてカントの治療をすると上顎の傾きがまっすぐになるので歯もまっすぐになる方向に改善されていきます。さらには下顎も顔面正中と会う方向に移動させることも可能になります。

歯並びの対称性(水平かどうか)

スマイル時の歯並びの傾きのことをカントといいますが、上顎歯列が左右どちらかに傾いているとスマイルの対象性が失われますので、程度がひどい場合は治療プランに入れなければならないでしょう。カントがある場合は上顎骨から傾いているので顔面正中に対して前歯が斜めになっており下顎も歪んで側方へずれています。

カント修正の矯正治療は従来はルフォー+SSROの骨切り外科手術でしたが、現在は歯科矯正用アンカースクリューによって骨きり手術を避けることが可能になっています。歯科矯正用アンカースクリューは局所麻酔で施術が可能であり、骨切り手術を伴わない手軽な施術であることが特徴です。図では右側が垂れ下がって右側の歯茎だけが見えているので歯科矯正用アンカースクリューを併用して右側の歯と歯槽骨・歯茎を上げることでカント修正が必要になるスマイルです。

左が下がって傾いている歯並び(カント)の実際の症例~カント修正~

ではカント修正の矯正治療について実際の症例を見てみましょう。下顎の歪みと上顎から傾いたスマイル(カント)を主訴に来院されました。歯科矯正用アンカースクリューによる奥歯の圧下とスマイルトレーニング、下顎の移動を行い顎関節周囲の神経・筋の適応を用いて非外科の矯正治療で改善しました。

術前(ビフォー)

まず顔貌の評価です。口角が左下がりで顎が右へ曲がっているため顎のラインの左右差が認められました。スマイル時には左側の歯茎だけが見えており上あごから傾いているのがわかります。口腔内は正面から見ると左下がりに傾いていることがわかります。また、右から撮った写真と左から撮った写真を比べると明らかに左の歯茎が多く露出しているのが分かります。

歯科矯正用アンカースクリューという小さなチタン製のネジを用いて非外科の通常の矯正治療のみで右側の歯列を圧下(めり込ませ)して顎の移動とスマイル、顔貌の左右対称性を改善しました。

術後(アフター)

治療後の顔立ちは正面から見ると顎のラインや口唇の左右対称性が改善されていることが分かります。また、スマイル時に見えていた左側の歯茎も右側と同じ高さにまで圧下したため右側同様、笑っても見えなくなっています。口腔内も正面、左右すべての面で左右対称性が改善されています。特に左側の歯を圧下したため歯茎が短く改善されたことが分かります。咬み合わせも当然治っており1級正常咬合になっています。

【本症例の概要と治療法、リスク、期間、料金について】
上顎から傾いているため笑うと左側の歯茎だけが見えることを主訴に来院。多少の歯の叢生と左側の不正咬合が見られる。裏側矯正装置で治療を行い、左側に歯科矯正用アンカースクリューを併用してカント修正も行った。

矯正治療のリスク:歯磨きがしにくくなる、歯根吸収が起きうる、装置によっては発音に影響が出る、食事に制限が入る等 詳しくは https://facetalk.jp/risk-orthodontic-tx/
費用:平均約120万円 詳しくは https://facetalk.jp/treatment-costs/
期間:3年程度

矯正治療のリスクについて ※費用について

口唇の審美性の基準と矯正診断

正面から見た口唇

口唇が安静時に4mm以上開いていると美しくありません。上側の口唇の厚みは8mm程度、下の口唇は10mm程度の厚みがあると美しく見えます。 また、口ポカンした時に前歯は1~2mm程度見えているのが正常で、上顎の前歯が下唇のドライウェットラインに乗っていることで綺麗に見えます。上唇は天使が持っている弓のような形(キューピッドボウ)が美しいとされています。この状態は口ゴボの方によくみられる唇の内側の粘膜がめくれた”たらこ唇”にはなっていません。

横から見た口唇

横顔の鼻とオトガイを結んだ線であるEラインから唇が出ていると口ゴボの傾向があります。鼻が高い白人はEラインより内側に唇があることが多いですが、日本人はEライン上に乗っているか内側にあれば綺麗に見えます。

上唇はCカールも含め引っ込みすぎない程度の位置が綺麗に見えます。また、鼻と上唇の角度(ナゾラビアルアングル)が90~100度くらいが綺麗に見えます。下唇からオトガイにかけての緩やかなくぼみをオトガイ唇溝といいますが、これがS字を描いていると綺麗に見えます。口ゴボの方のオトガイ唇溝は浅いか直線的に下唇が突出しているような形になります。また、口唇閉鎖が難しいためオトガイに梅干し皺が生じいびつな形になります。

鼻が高いあるいはオトガイが発達している人への配慮

鼻が高かったりオトガイが発達している人では顔のバランスの観点から、抜歯矯正のときに注意すべきことがあります。 鼻やオトガイの絶対的な高さは変わらないので、口元を後退させるとオトガイや鼻がくっきりと目立ってきます。逆に、鼻が低かったり、オトガイが発達していない、またはオトガイ唇溝が平坦な人は抜歯矯正をしたほうが顔のラインが整うことが多いです。

オトガイのシワはなぜできるの?

また前歯が前に出てしまっていて口を閉じるため、がんばって口唇を閉じなければならない場合、下唇を閉じる筋肉であるオトガイ筋が収縮するため、顎に梅干し皺ができます。この顎の梅干しシワは写真を撮るときに本人が気づくことが多いです。このような顎の梅干し皺ができる場合、口が閉じにくいことを表しており口呼吸もあります。その原因としては口ゴボや下顔面が長かったり、あるいは上唇が短すぎることが考えられます。

口を閉じた時に人中が長く見える方へ

このように梅干しシワがある方は人中も伸ばして口を閉じているので口を閉じた時に人中が長く見えることも特徴的です。治療としては抜歯矯正をして歯科矯正用アンカースクリューを併用して歯茎から後退させることで人中の間延びを防ぎながらオトガイのシワの緩和もできます。

唇の厚みを考慮した矯正診断について

唇の赤い部分(赤唇部)が厚いまたは薄い方は原因に応じて、上下の赤唇部の厚みのバランスを考慮して矯正を行わなければならないこともあります。

口唇の加齢変化

顔は加齢とともにのっぺりとした平坦な顔になり、口唇はふくらみが無くなっていく傾向があります。60歳以上の方では口唇の薄い場合、抜歯して矯正治療すると年齢よりも老けて見えることがありますので、やや口元が突出していても抜歯をしないこともあります。また、加齢とともに上唇が重力に逆らえず笑っても下の歯しか見えなくなるので若さと好感されるスマイルのために上の歯を挺出させる治療プランをたてることもあります。

口唇が薄い方への配慮

前歯を引っ込めすぎるとこれもまた問題で、口唇が薄くなります。そのような方はあえて抜歯せず、やや前歯を前に出してあげてもっと赤唇がめくれて見えるようにさせるほうが魅力的な顔立ちとなることもあります。  

口ゴボで唇がめくれている場合

逆に口ゴボ・口呼吸で普段口を開いている場合には通常閉じていると見えない唇の内側の粘膜がめくれて見えてきますので唇が厚く見え(いわゆる”たらこ唇”)ます。口呼吸は舌の位置が正常ではなく口腔周囲の筋肉のバランスも異常になるため唇のバランスだけでなく歯並びや顔立ちにも影響を及ぼします。若いころから習慣的に口呼吸している方は出っ歯や開咬、面長、下顎後退、オープンバイトなどさまざまな顔の変形が見られます。

口ゴボで赤唇がめくれている場合には歯科矯正用アンカースクリューを併用して抜歯矯正を行い口元の後退を行います。

面長で下顎後退して人中が間延びしている方は下顎の反時計回りオートローテーションをを行い、人中と面長の改善、オトガイの前方移動により整ったEラインをつくる治療を行います。

唇が厚い方は抜歯矯正では注意が必要

人によっては屋根のひさしのようにCカールが強かったり、そもそも唇が分厚い方は口ゴボを治療する際、唇の形が形状記憶されているかのように維持されているので後退しにくいことがリスクです。つまり、歯を10後退させても6ぐらいしか後退しないということで、歯の後退量に対して追従率が悪くなる傾向があります。

参考文献

  1. Orthodonntics Current Principles and Techniques 5th edition, Graber, Vanarsdall, Vig 2010 ELSEVIER
  2. Smile esthetics from patients’ perspectives for faces of varying attractiveness Chan A. Chang, Henry W. Fields Jr., Frank Michael Beck, Nathan C. Springer, Allen R. Firestone, Stephen Rosenstiel, James C. Christensen Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2011 Oct;140(4):e171-80. 

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