受け口とは
受け口とは一般に下顎の前歯が上顎の前歯よりも前にある咬み合わせのことです。重度の場合には下顎が前に突出(下顎前突)して顔がしゃくれの状態になっている場合も珍しくありません。口腔内を見ると、下の歯が上顎より前に出て咬み合わせが反対になっているだけでなく、叢生や乱杭歯があったり上顎の歯列の幅が狭くなっていることもよくあります。また、ほとんどの受け口の患者さんの舌位は口蓋に上がっておらずいわゆる低位舌となっており口呼吸しています。
受け口の原因
受け口などの顎の形は遺伝だからとあきらめている方が多いですが、遺伝要因よりも口呼吸などの習慣からくる後天的な要因のほうが強いのです。受け口の原因は2割程度が遺伝要因であとは低位舌、口呼吸など後天的な習慣要因で受け口やしゃくれになります。
口呼吸による影響
成長期に鼻炎や鼻閉があり鼻が詰まっていたなどのきっかけで口呼吸になり舌の位置が下に落ち込むと舌根部が気道を圧迫しますので気道が狭くなります。苦しくなるため自然と下顎を前に出して呼吸し、これが続くと下顎が日常的に前方に位置するために下顎が前に成長し舌が口蓋にくっついておらず上顎が劣成長となります。このように生活習慣や癖などで弱い力が続くと筋肉や骨はそれに調和するように変化してきます。このことはなにも子供に限ったことではなく大人でも同じく日々筋と骨に変化が起きてきます。
受け口・下顎前突の治療
骨切り外科手術による治療
外科矯正とは上顎と下顎(または下顎のみ)の骨を手術で切って顎の骨を分割し顔の審美性を整えたり上下で咬み合うよう顎の骨を移動させて治す治療です。受け口の外科矯正は短期で下顎骨を後退させ中顔面の鼻翼基部の凹みを改善できるためしゃくれ顔を変えられることが非常に魅力的です。ただ外科矯正は神経麻痺は良く起こりますしリスクが矯正治療と比べて大きいことや料金が高い(※保険の外科矯正が適応なら3割)のがネックです。
矯正歯科治療単独による治療
両顎手術などの外科矯正はしゃくれ顔を改善して下顎を大きく後退させたり鼻翼基部を前に出したりして顔を整えられますが、やはりリスクと料金、入院期間などから矯正治療単独での治療を希望される方もおります。
重度の受け口を矯正治療単独で治療した症例
30代の患者さんです。大学病院では手術しかないので無理に治療を始めないほうがいいと言われた方です。親知らずだけ抜歯し非外科での矯正治療単独で治療を行いました。
術前(ビフォー)
治療前の写真では下あごの突出感があり、笑ったスマイル時にも主に下の前歯が見えています。正面から見ても下唇が前方へ出ている感じがわかります。また、咬み合わせも完全に受け口の咬み合わせです。
術後(アフター)
治療後の写真では正面から見ると下唇が引っ込み上下の唇の関係が改善され受け口っぽさが軽減されています。スマイルも上の前歯が見えるようになったため好感度が増しています。咬み合わせは一級咬合になっているのがわかります。このように重度の受け口でも治療技術を駆使することで矯正治療ができます。
【本症例の概要と治療法、リスク、料金、期間について】
症例の概要と治療法:30代女性、受け口を主訴に来院。非抜歯、表側矯正装置で治療を行った。噛み合わせはClassⅢ(下が前にある咬合)、唇の上下関係も下唇が前方にある。面長で低位舌が認められた。非抜歯、表側矯正にて治療を行いClassⅠ咬合を獲得し唇の上下関係も改善した。
矯正治療のリスク:歯磨きがしにくくなる、歯根吸収が起きうる、装置が頬等に擦れて違和感が出る、食事に制限が入る、アンカースクリューが脱離する可能性等 詳しくは https://facetalk.jp/risk-orthodontic-tx/
費用:平均約100万円 詳しくはhttps://facetalk.jp/treatment-costs/
期間:2年程度
※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。
奥歯がない反対咬合の矯正治療症例
少々特殊ですが、この20代の患者さんは下顎両側の大臼歯6番7番が虫歯で欠損しており、重度の反対咬合を主訴に来院されました。外科矯正で骨切り(SSRO)しないと治らないと診断する矯正専門医も多いと思いますが、私はアンカースクリューを併用して日常的に矯正歯科治療を行っているので、欠損部にアンカースクリューを使って表側矯正装置を用いて下顎前歯を歯槽骨を作りながら後退させ重度の反対咬合を治しました。
【術前】
【術後】
矯正治療のリスク:歯磨きがしにくくなる、歯根吸収が起きうる、装置が頬等に擦れて違和感が出る、食事に制限が入る、アンカースクリューが脱離する可能性がある等 詳しくは https://facetalk.jp/risk-orthodontic-tx/
費用:平均約100万円 詳しくは https://facetalk.jp/treatment-costs/
期間1年半~3年程度
※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。
歯槽骨から後退させ下唇部の張りを軽減させる
下顎が前に出ている方は下の前歯の歯槽骨が前に張り出しているため下唇が張った感じを持つ方も珍しくありません。このような場合には口ゴボの治療と同様に歯槽骨から後退させるような矯正力をかけると解消することがあります。
下の図は下顎前突の患者さんを歯科矯正用アンカースクリューを併用して非抜歯にて歯列全体を後退させるとともに下顎の前歯の歯槽骨を凹ませた症例の術前術後の重ね合わせです。歯槽骨が後退するような力をかけて可能な限り歯槽骨からくぼませました。
【補足】外科矯正について
しゃくれた顔を治し下顎骨を引っ込めたい人には外科矯正をお勧めしています。ここでは骨切りを伴う外科矯正についてもう少し詳しく書いておきたいと思います。外科矯正には大きく保険適応と自費治療の外科矯正があります。
⇒より詳しい外科矯正について知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
顎が大きく左右にゆがんでいたり、顎が出すぎたりして咬み合わせもズレている人を『顎変形症』と診断される場合があります。もし矯正歯科医から顎変形症と診断されたら顎の骨を切る外科手術を伴う矯正治療を保険で行うことが可能です。この保険の外科矯正は費用を抑えられることがメリットですが、あくまで噛み合わせなどの「機能」を治すことが目的ですので美容面を最大限考えた治療プランを求める場合には美容を目的とした自費治療になります。また、多くの場合は執刀医を指名することができませんので、実際に執刀するドクターを指定したい場合にも自費治療になります。
保険で外科矯正を行う場合は『術前矯正』と言って手術の前に2年ほど矯正治療をします。術前矯正では手術の前に顎がゆがんでいる方向によりひどくなる状態に歯を動かして手術に臨みます。例えばしゃくれの方の術前矯正ではよりしゃくれがひどくなる方向に動かします。当然、治療中は常に歯にワイヤーと装置(ブラケット)がついていて、術前矯正が終わり次第、手術、術後矯正(1年程度)という治療の流れになります。
保険の外科矯正に使える矯正装置
保険の外科矯正では使える矯正装置が決まっていて表側の装置のみ使用が可能です。裏側矯正は保険の適応ではないのでもし裏側矯正装置で手術をしたい場合には通常の矯正治療と同じ自費治療でやることになります。
美容を目的とした自費治療の骨切り手術について
顔の美容面を良くすることを最大の目的として自費治療で行う場合には裏側矯正を選択できるだけでなく治療術式の選択肢も増えます。たとえばサージェリーファースト(surgery first)と言って外科手術を先に行いその後矯正治療で噛み合わせと歯並びを整えていくという方法があります。サージェリーファーストの良い点は術前矯正を最小限にするため術前矯正で顔が悪くならない、期間が短縮される、顔貌が早期に改善されてモチベーションが上がる、術後矯正も筋肉の付き方が変わるため動かしやすいこと等があります。
当院は保険医療機関ではないため自費治療によるサージェリーファーストで噛み合わせを合わせながらも顔の美容面を最大限高める治療プランを立てます。そのため顎変形症でも顔の美容面を最大限考慮した治療プランをしてもらいたいとか、裏側矯正やサージェリーファーストで術前矯正を最小限にしたい方に向いています。顎変形症の治療は形成・美容外科医あるいは口腔外科医の知識・技術、美的センスなど執刀医の能力に大きく左右されるため信用できる形成外科医と組んでサージェリーファーストを行っています。