歯並びが悪いと歯の汚れが落としきれず細菌や歯石が溜まりやすくなりがちです。この不衛生な口腔内の状態が続いて歯周病菌などの細菌が繁殖すると歯茎が腫れ放置すると膿も出てきて歯茎がブヨブヨになってしまいます。このように膿が出てくるほど進行している場合、歯を支える骨(歯槽骨)も溶ける歯槽膿漏(歯周病)といわれる状態になっていきます。このように歯周病にかかって歯槽骨が減ってしまった方でも基本的に矯正歯科治療は歯が残っていれば矯正治療は可能ですが、歯周病に罹患している方向けに矯正治療を受ける前に知っておくべきことを3つに分けて説明しておきます。
まず歯周病の治療を受ける
矯正治療を受ける前に行っておく一つめのポイントは歯茎に腫れや膿が出てくるような方はまず歯周病の治療を受けて感染の進行を止め自分で口腔内をきれいにできるようにしておくことです。矯正歯科では健康な歯を動かすとき、健康な歯茎を持っている方には適正な力であっても歯槽骨が減っている状態では過剰な力になってしまうことがあります。細菌感染が進行している状態で歯に力を加えるとこの過剰な力により炎症が悪化してしまうのです。
口腔内を清潔に維持する習慣をつける
歯周病治療で歯茎の腫れを解消し健康な歯茎に引き締めてもらったら毎日丁寧にブラッシングを行い定期的に歯科医院でプロによる歯のクリーニングを受けるようにすることをお勧めします。多くの歯周病は磨き残しや喫煙など普段の生活習慣から起こる病気です。したがって再発しないように日頃の口腔内の衛生メンテナンスが自分でできてこそ歯周病の治療が終わったといえるのです。
昔の差し歯は矯正後にやり直す場合もある
歯周病にかかっている方は口腔内の衛生状態が良くないことが多く、インレーやブリッジ等の差し歯が入っていることも多いです。矯正治療で歯を動かして咬み合わせが整ってくると昔入れた差し歯が合わなくなってきます。そのため、矯正治療後に新しい咬み合わせに合った新しい差し歯を入れ直す必要もあるのです。矯正治療中に削る可能性や矯正治療後にやり直す可能性があるわけですから、矯正治療前に差し歯にする必要がある場合でもあえて仮歯のままにして矯正治療を開始します。そして矯正治療が終わったら新しい差し歯を入れるようにしたほうが経済的です。もし矯正治療前にきれいなセラミックの差し歯などを入れてしまうと矯正治療後はかみ合わせが変わるため、大きく修正する場合には入れなおしになりますので注意が必要です。
歯槽骨が下がる原因
人間は年とともに歯茎が下がってくる傾向があるため笑ったときに上の歯茎が見えなくなってくると自然と老化した印象が出てきます。老化以外でも歯茎は退縮しますが歯茎が下がるのは歯茎を裏打ちしている歯槽骨が何らかの原因で失われるためです。
主に以下のような原因があります。
- 老化で歯槽骨が徐々に減少したため
- 歯周病で病的に歯槽骨が減少したため
- 固めの歯ブラシで強く歯茎付近を磨いたため
- 上下の歯が強く当たって異常な角度に傾斜したため
- 八重歯などで正常な歯槽骨の位置から生えてこなかったため
- 強い矯正力で歯の移動をしたため
矯正治療では強い力を加えない
歯列矯正治療自体は歯槽骨の高さを整える効果があるため歯茎のラインがそろいます。矯正治療で歯茎がそろうのは歯槽骨が歯の移動とともについてくるからです。このように歯槽骨がついてくるには条件があって矯正力が適正であるという条件があります。伝統的な矯正治療で主に使用されている矯正力では骨に対する矯正力が生理的範囲を大きく超える場合があり、その場合には歯槽骨が追従せずに歯の移動のみが起こるため歯茎が下がり歯根が露出してくるリスクが高まります。
強い力がかかりやすいときはどんなとき?
治療中に強い矯正力が起こりやすい場合がいくつかあります。
- 治療初期で強いガタガタを解くとき
- チンキャップやヘッドギアなど顎外装置を使用するとき
- 急速拡大装置を使用するとき
- 抜歯矯正で前歯を後ろに引っ込めるとき
- 治療後半で歯根の傾斜角度(トルク)をかけるとき
特に2や3に挙げた装置は装置の性質上どうしても矯正力が大幅に増大しますので注意が必要です。ちなみに当院では歯槽骨の健康を考慮して生理的な弱い矯正力を活用した装置・技術で治療を行なっています。矯正治療中に強い力をかけず歯茎へのダメージを最小限にするには適切な治療技術の選択と生理的な力で治療を進めることの利点を術者が理解していなければなりません。例えばどうしても動かない時には強い力をかける前に上下の歯の干渉がないかを確認したりワイヤーと装置間の摩擦がないかなど矯正力以外の動かない原因をまず探ることが安全な矯正治療を行う上で大切です。
まとめ
- 歯周病がある場合には、まず歯周病の治療を受ける
- 再発しないよう口腔内の衛生を保つ習慣をつける
- 新しい差し歯は矯正前に入れない(特に自費のセラミックの差し歯など)
- 裏打ちしている歯槽骨が下がることが歯茎が下がる原因
- 強い力を使う矯正治療では歯茎が下がりやすい
- 生理的な力で動かすことの重要性を理解し対応した技術で治療することが大切