拡大装置の分類
矯正治療で使われる拡大装置にはゆっくり歯だけを広げるタイプと2週間程度で一気に上顎骨から広げる2種類の拡大装置があります。ゆっくり広げるタイプは緩徐拡大装置といって取り外し式の拡大床や左右の臼歯を太めの針金でつないで広げる固定式のWタイプ拡大装置などがあります。歯だけしか動かせないので軽度の歯列の狭窄(狭い)に使います。
一方、急速拡大装置で骨から広げる方法は大きく拡大できるため基本は重度の歯列狭窄に使用します。急速拡大装置は朝晩自分で万力のようなエキスパンダーをまわして2週間程度で上顎骨ごと真ん中から割って広げる装置です。この急速拡大で骨から側方に広げた後は、真ん中の割れたところに骨が再生してくるまでの治癒期間が必要で、通常は3か月~6か月程度固定したままにしておきます。
歯列拡大に伴うリスク
まず基本事項として、歯列拡大はどこまでも拡大できるのではなく上下の歯列の横幅を調和させる必要があるので、上顎歯列の拡大量は下顎歯列の拡大に制限されます。
緩徐拡大ですと、歯槽骨の幅以上に無理に拡大すると歯根露出や後戻りしやすい、ハの字に広がり咬めないなどのリスクがあります。
急速拡大では鼻腔が広がり鼻呼吸に役立ちますが、程度により鼻が横に広がるリスクがあります。
歯列を拡大する理由(メリット)
歯列の拡大には以下のようなメリットがあります。
- 頬壁(バッカルコリダー)を少なくする
- 舌が入るスペースを広げる(いびき対策、気道への配慮)
- V字やひょうたんのような形の狭窄歯列の改善
- スペースを作れる
- 上下の歯列の幅を調和させる
- 急速拡大では鼻腔が広がるので鼻呼吸しやすくなる
いびき治療への応用
いびきで睡眠が浅くなり次の日も疲れが取れない頭がはっきりさえないという睡眠時無呼吸症候群のような症状が起こります。次に紹介する成人用の急速拡大装置でアンカースクリューを併用して歯列の幅を広げると舌が収まるスペースを骨から広く確保することできるので、気道に余裕を持たせることができ鼻腔も広がることもあり、いびき対策になります。
成人でも急速拡大ができる装置の登場
従来の急速拡大の欠点である”成人では上顎の口蓋正中(口蓋正中縫合)の癒合が進んでいるため上顎の骨を割って広げることができない”という欠点を解消する新しい急速拡大法が矯正歯科治療で使用されるようになってきています。この新しい急速拡大法は装置を歯に固定するのではなく歯科矯正用アンカースクリューで装置を左右の上顎の骨に固定してエキスパンダーで広げていく方法でMSE (Maxillary Skeletal Expander)とかMARPE(Miniscrew Assisted Rapid Palatal Expansion)と呼ばれています。
この装置が登場する前は、成人の場合上顎骨の正中から割ることが難しかったので、上顎骨から拡大するためには骨切りの外科手術(SARPE)をして側方拡大をするしか方法がありませんでしたが、このMSE(MARPE)の登場によりアンカースクリューを口蓋に打って矯正治療だけで骨から歯列を拡大できるようになったのです。
MSE(MARPE)による急速拡大は臼歯部も拡大される
従来の急速拡大装置は臼歯部があまり広がらず前歯に近いほど広がる傾向があり扇状に拡大されます。これは口蓋の後方には翼突口蓋縫合という翼状突起と口蓋が癒合しているるために急速拡大で口蓋を割る際に大きな抵抗となるためです。一方、歯科矯正用アンカースクリューで口蓋骨に留めて急速拡大するMSEではこの翼突口蓋縫合の一部を割ることができるため臼歯部も前歯部も同じ程度に平行に拡大されます。ですので特に臼歯部を広げる必要がある場合には従来の急速拡大装置より有利な方法と考えられます。
※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。