小児の受け口と予防法・矯正治療

乳歯の反対咬合

なぜ受け口になるのか?

受け口になる原因は遺伝のほかに舌の位置や鼻閉などによる口呼吸、前歯が生える方向の異常などがあります。このように矯正歯科治療を受ける多くの正常範囲の遺伝子を持つ子供は、口呼吸など後天的な要因が持続するために成長とともに骨格的な受け口になっていきます。

受け口とは下の前歯が上の前歯より前に来ている歯並びのことです。反対咬合とか三級不正咬合と呼ばれたりもします。受け口には2種類あり、一つは受け口ですが、もう一つは噛むときに一時的に受け口状態になる見かけの受け口です。

小児期で受け口がみられる場合、噛むときに前歯にガイドされて下顎が前方へ誘導され見かけの受け口となっていることがあります。このときには小児矯正治療を受けて歯を正常な方向へ動かして、下顎が健常に機能できるようにしてあげることで受け口の悪化を防止できます。このような見かけの受け口の顎の位置は後方にあるので骨格から受け口になっている訳ではありませんが、見かけの受け口が長期間持続すると骨格にも影響を与えます。

上記のように下顎が歯で前方にガイドされて見かけ上受け口になっている子供だけでなく、なんの誘導も受けずに受け口となっている重度の受け口の患者さんもいらっしゃいます。この場合には遺伝要因だけでなく舌位や呼吸などの機能的な問題が習慣となっていることがほとんどです。このような重度の受け口の子供の場合でも鼻呼吸を確立し、舌を正常内位置に戻し口腔周囲筋のトレーニングとともに小児矯正用の装置を併用することで顔立ちを改善し受け口の進行を止めることができます。先ほども申し上げました通り、受け口の状態が長く続くと骨格まで受け口の顔になってくるため、早ければ3歳くらいで乳歯の前歯が下の前歯より後方にある場合は矯正歯科医にご相談なさることを強くお勧めします。

さらに、6歳前後で上下の前歯と大臼歯が永久歯に生えかわり始めますので、この時期にも受け口などの重大な問題がないか一度、矯正歯科専門医に相談しておきましょう。

受け口のデメリット

受け口の子供はいくつかの点で健常な成長に不利になります。

  • 前歯が反対になっているため発音しにくい言葉が出てくる
  • 噛みにくい
  • 顔立ちや咬み合わせが人と異なるため見た目を気にし心理的につらい
  • 顎が正常に犬歯でガイドされないため顎関節に負担がかかり関節周囲に痛みが出やすい

などです。

受け口は自然に治るの? 

乳歯列期の受け口が永久歯に生え変わって自然治癒する確率は約6%です。つまりほとんどの乳歯列期の受け口は自然治癒しないことになります。特に前歯だけでなく奥歯も反対咬合になっているタイプの重度の受け口は自然治癒は難しいです。

3歳児検診で受け口を指摘されたら

3歳児の矯正治療の難しい点について

社会人の矯正治療ですと自分できれいになりたいと思って自ら時間と費用を出しているので積極的に治療に必要な指示を守っていただけることがほとんどです。一方、3歳前後の小児ですと成人と比べて協力度が大きく異なり歯型を取ることさえ難しいことがあります。

3歳でも使える受け口治療の矯正装置~ムーシールド~

 

3歳では本人の協力度を必要とする複雑な装置や6歳臼歯がまだ生えていないため6歳臼歯を使った装置も使えません。しかも歯型を取らせてもらえないこともしばしばあります。そこで受け口の乳歯列期の子供でも使えるような単純な装置で治療していくことになります。 この時期の受け口に使用される装置はムーシールド装置にほぼ限られます。ムーシールドには既製品があるので歯型を取る必要がないため使いやすい矯正装置でもあります。 6歳ごろに前歯の永久歯が生えてくるとムーシールドだけでは難しい場合も増えてきますが、3歳程度の乳歯列期でムーシールドを指示通りちゃんと使ってもらえれば半年程度で改善していきます。 

3歳児の受け口治療の実際

3歳児でも協力度が比較的良く歯型も取らせてもらえる児童もおりますので、そのようなお子様は一人一人のお子様の口の中に合ったカスタムメイドのムーシールド装置を入れることが出来ます。 一方、歯型取りさえ拒否する子供も多く協力度が低い子供に対しては既製のムーシールドを使うことになります。

この時期のムーシールド装置はお子様が装置に慣れるまで寝ている間に親御様がそっと口の中に装置をセットするようにして使います。調整の来院時には当たっているところや成長とともに触れてくる部位を口の中を見ながら装置の内側を削って調整をしていきます。 必要に応じて新しいムーシールド作成やリンガルアーチなど他の小児矯正装置を使うこともあります。

乳歯列での受け口治療の流れ

 協力度の問題もあり3歳ごろの乳歯列期で受け口を指摘されたお子様はまずムーシールドを検討してみると良いです。ムーシールド単独で受け口が改善しないようでしたら小児矯正治療(一期治療とも呼ばれます)へ移行して6歳臼歯が生えてくる辺りから別の矯正装置も入れていくことになります。多くの歯科医院では小児矯正に移行しても差額だけお支払いするようになっているため小児矯正に移行してもムーシールド治療代が無駄になることはありません。 以下に受け口治療で使用される代表的な装置を解説します。

筋機能療法(MFT)

MFTとは受け口を引き起こしている舌や口腔周囲筋を健康な状態に戻してあげる処置です。受け口は呼吸や舌の位置の異常から引き起こされる典型的な咬み合わせですので私はこのMFTが一番重要と考えています。どの筋肉が原因となっているのかを判断してさまざまな角度からアドバイスします。

自宅にあるものでできるトレーニングもありますが必要に応じて装置を作ることもあります。また、鼻が詰まっている場合には耳鼻科との連携も必要になることがあります。MFTには特に治療上のリスクはありませんのでどの親御さんも安心して治療を受けていただけると思います。

ムーシールド

受け口は呼吸と関係が深く、舌の位置がとても大切です。そのため舌の位置や口腔周囲の筋肉のバランスを装置でサポートすることで受け口を作っている原因を取り除くことができます。このムーシールドは舌を上に持ち上げ、歯列を被っている唇や頬の筋を健常なバランスが取れるようにする装置です。非常に単純な形をしていますので6歳程度の子供でも使用することができます。型も取らせてもらえないほど小さいお子さんですと既製品を使用してもらいますが、ある程度大きくなったお子様には子供の歯形から作ったオーダーメイドのものを使うことで快適に使用してもらっています。患者さんの口の中もひとりひとり異なりますので。

拡大装置・急速拡大・拡大床

一般に下顎前突の方は上顎があまり発達せず低位舌であるので上顎の歯列幅径が狭いことが多いです。ですので歯列だけでなく上顎骨から拡大する急速拡大装置や歯列だけを拡大する拡大床などの拡大を行うことが多いです。上顎の拡大を行うことで正常な舌の位置にするためのスペースも生まれます。

チンキャップ・上顎前方牽引装置

上顎前方牽引装置  

チンキャップや上顎前方牽引装置は11歳くらいの成長期の子供に有効な装置です。チンキャップは下顎が前に出るのを抑え、写真の上顎前方けん引装置(アッパープル)はくぼんだ中顔面を前に出しながら下顎の前方への移動を抑えます。一般に下顎前突や受け口の患者さんは上顎が劣成長で鼻の横(鼻翼基部)がくぼんで凹んでいますので上顎けん引装置が使われます。近年ではより上顎骨の縫合部に効率的に力をかけるために上顎けん引装置と歯科矯正用アンカースクリューの併用も行われています。

まとめ

  • お子様の歯並びや咬み合わせで気になることがあったら遅くとも6~7歳までに矯正専門医に診せる。 
  • 3歳ごろの乳歯列期の受け口はまずムーシールド装置を試してみる。  
  • 6歳ごろに永久歯が生えてくるとムーシールド単独では改善しないことが増えるため上顎前方牽引装置などの小児矯正治療(一期治療)が必要になる

※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。

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