金属アレルギー患者さんのための矯正歯科治療

金属アレルギーの患者さんが矯正歯科治療を受けようとするとき知っておくべきことまとめてみました。金属アレルギーをお持ちの方は参考にされてください。

金属アレルギーの原因

アレルギーとはある物質に対して免疫反応を過剰に起こすことです。もちろん遺伝要因もありますが環境要因も大きいのです。都会で育った人ほどアレルギーになりやすいと聞いたことはありませんか?都会は排気ガスや水道水の消毒薬などにアレルギーを引き起こしやすい物質が多く含まれています。このような環境で長い間暮らしているとアレルギーが成立して、ちょっとした塵にもアレルギー反応を起こすようになります。金属アレルギーもアレルギーを引き起こしやすい金属が体内に取り込まれた結果、アレルギーが確立して金属アレルギーとなります。その主な原因は銀歯が口腔内から溶け出していることや紅茶やコーヒー、チョコレートなど金属を多く含む食品を普段良く食べることにあります。金属が私たちの身体を構成する蛋白質(例えばアルブミンとかケラチンなど)と一体となり”金属蛋白複合体”を形成し、金属蛋白複合体(抗原)に対して抗体を作ります。金属アレルギーが成立している患者さんはこの複合体の濃度が高まった部位にアレルギー症状が起きます。金属アレルギーの患者さんはネックレスやピアスなどで接触部位がかぶれますし、全身性金属アレルギーの場合には手の平や足の裏は汗腺が多いため排出された金属蛋白複合体の濃度が手の平や足の裏で高まり湿疹が出ます。

金属アレルギーがでやすい金属

ニッケル、クロム、コバルト、パラジウムは金属アレルギーになりやすい金属の代表です。これらの金属は歯科で使用されることの多い金属なのでアレルギーの原因としてまず疑わなければならないのは口腔内の銀歯です。長い間口腔内の酸や咀嚼などでこれらの金属が溶け出すとアレルギーが成立してしまいます。金やプラチナ、チタンはアレルギー反応は非常に出にくいのですが、それでも金属アレルギー反応を示す方も少数ですが一部います。特にチタンはインプラントに使用されるため現代の歯科医療になくてはならない材料のひとつです。しかし、ある金属でアレルギーが出ると他の金属でも後にアレルギー反応が出てきやすい交差反応がありますのでニッケルやクロムなどでアレルギー症状が出る方がインプラントを受ける場合はチタンで交差反応が出る可能性がないわけではないことも知っておくべきです。これが金属アレルギーがある患者さんの歯科治療は基本ノンメタル治療となる理由です。

日常生活で気をつけること

金属アレルギーの環境要因としてまず挙げられるのが口腔内の銀歯からの金属の溶出です。以下のことに気をつけましょう。

  • 金属の歯の代わりにレジンやセラミック、ジルコニアなどのノンメタルで治してもらう
  • 酸性度を上げないよう日ごろの口腔内ケアをよく行う
  • 歯軋りや咬み合わせを改善して金属が溶け出しにくい口腔内環境を作る

金属を多く含む食べ物

次に食べ物に含まれる成分で金属アレルギー症状が出るため次のことにも気をつけましょう。

  • コーヒー、チョコレート、紅茶などのお茶を良く飲む人は控えめにする
  • インスタント食品やファストフードを控えめにする

さらにストレスは免疫機能を不調にしアレルギーが出やすくなりますから日ごろのストレスの解消法を身に付けることも大切なことです。

金属アレルギーの有無の確認

まず自分が金属アレルギーかどうかを確認してください。分かりやすいのはネックレスやピアスなど身に付ける装飾品で接触部位に湿疹が出たり赤くなってかぶれる方は局所性金属アレルギー(接触性皮膚炎)です。全身性の金属アレルギーの方は体内に取り込まれた金属が汗でも排出されるため汗をかきやすい手足に湿疹が出ます。そのような方の口腔内にはたいてい金属製の差し歯やブリッジなどが入っています。そのため口腔内の局所性金属アレルギーも併発して金属歯が直接触れている頬粘膜や舌にも白い縞模様が出ていることがあります。金属アレルギーが疑われる方は金属パッチテストを受けてみてください。金属パッチテストは健康保険が使えます。皮膚科でもやっているところとやってないところがありますのでパッチテストを行っているかを問い合わせてみてください。

金属アレルギーのある方の矯正歯科治療

通常、口腔内の矯正装置は1年半から2年程度で外れますので金属歯のように何年も口の中に入っているわけではありません。それでも金属アレルギーがある方の矯正治療では装置やワイヤーの材質をアレルギーが出にくいものを使用する必要があります。金属アレルギーが出にくいものにはチタンや貴金属をはじめセラミック、ジルコニア、プラスチック、ゴムなどがあります。当院では今までのところ、重度の金属アレルギーの患者さんには装置は表側のセラミックやジルコニアならびに貴金属でコーティングされた装置で行い、ワイヤーも貴金属でコーティングされたものを使用しています。奥歯の装置は通常の金属を用いて治療を行っていますが問題なく治療できております。当院では万が一金属アレルギー反応があった場合に備えて純チタンの装置も用意していますが現在のところ必要になったことはありません。インビザラインなどのプラスチックの板で治していくマウスピース矯正も金属アレルギー対策としては良い矯正治療方法です。ですが、マウスピース矯正は軽度~中程度の歯並びを治すのに最適な適応範囲が限定的な方法でメリットだけでなくデメリットもありますのでご自身で他の方法とよく比較し総合的にご判断ください。

矯正治療を始めるときにすでに手足に湿疹があったり口腔内の灼熱感、味覚異常などのアレルギー症状が出て苦しい場合にはまず金属アレルギー症状を緩和しなければ矯正治療どころではありませんので、皮膚科専門医院を受診し金属パッチテストを受けていただき口腔内の金属製クラウンやブリッジなどの原因除去を行います。金属を除去した後はプラスチック(レジン)製の仮歯を入れて3~6ヶ月程度観察し金属アレルギー症状が緩和したのを確認してから矯正歯科治療開始となります。矯正治療期間中は金属を多く含む食べ物を避けることも必要です。矯正歯科治療終了後にそれらの仮歯をセラミックやジルコニアなどのノンメタル修復物で新しい咬み合わせに合わせて作り直します。

金属アレルギーがあっても裏側矯正でやりたい方へ

当院では金属アレルギー患者さんで裏側矯正を希望された方の治療経験も多くあります。金属アレルギーの患者さんは基本は先ほど述べた表側の装置でセラミックやコーティングされたワイヤーのブラケットで治療します。ところがどうしても裏側矯正をしたいという金属アレルギー患者さんもいてそのような方も裏側矯正で工夫しながら治療してきました。今回は金属アレルギーがある患者さんの裏側矯正で気を付ける点を述べていきたいと思います。

金属アレルギー患者さんの口腔内の特徴

金属アレルギーに反応する金属には矯正治療でもよくつかわれている亜鉛(Zn)やニッケル(Ni)があります。一方、金やプラチナなどの貴金属類は金属アレルギー症状が出にくいとされる金属です。知っておくと面白いと思いますが、金属アレルギーの患者さんの口腔内は保険でつくられた銀歯が何本も入っていることが多いです。保険治療を悪く言うつもりはないのですが実際に歯のクリーニングをしていて銀歯を磨くとブラシが真っ黒になるため食事や熱などの機械的、化学的な反応で溶け出していることがわかります。なので皮膚科のお医者さんで金属アレルギーの治療を専門にする先生は口腔内を見ます。

金属アレルギー患者さんの裏側矯正

裏側矯正装置は当然金属でできていますし、舌と接触している時間が長いので金属アレルギーの症状が心配になります。裏側矯正でも存分に矯正用ワックスでカバーすることで直接金属と触れる面積を減らすなどの工夫をしながら様子を見て治療を進めていきます。ただ先ほど述べましたように本来は表側のコーティングされた装置でやるべきではありますので装置と接触している舌などに水泡が出てどうしても耐えられない場合は表側の装置に変更することも検討すべきです。

まとめ

  • 食べ物や口腔内の銀歯に含まれる金属にも注意を払う
  • 金属アレルギー患者さんでも適切な配慮がなされリスクを理解できれば裏側矯正ができる
  • 金属アレルギーのある方はセラミックやコーティングワイヤーで表側の装置でやるのが基本
  • 装置やワイヤーに含まれる金属の種類と金属アレルギーが出る金属の種類を知っておくべき(パッチテスト)

※矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。

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