抗加齢医学は比較的新しい医学で知識を自ら実践して不要な老化を最小限に抑えようとするエキサイティングな学問です。私が抗加齢医学に興味を持ったのは、矯正歯科治療で歯の移動をはじめ歯槽骨や表情筋・咀嚼筋、顎の骨や顎関節の変化がありますが、年齢を重ねてくると歯が動くスピードや治癒の速さが個人差が大きいことと関係があるのではないかと考えたからです。
矯正治療のスピードは細胞が若く維持されているほど速くスムーズになります。年齢以上に不要な老化を抑えるための基本はまず食事・運動・睡眠・メンタルの生活習慣の改善です。生活習慣の違いによって一卵性双生児であってもその遺伝子の状態を変え顔かたちまで変えていき、見た目や寿命までも変わっていくことが知られています。
矯正歯科における抗加齢医学の応用
この抗加齢医学に基づいて食事やサプリメントのアドバイス、口元のたるみ改善のためのボタンを用いた表情筋(口輪筋)トレーニングなどの顔や矯正歯科に関連した指導を必要に応じて行っています。
老化による口周りの変化
一般に加齢とともに、ほうれい線をはじめ顔の鼻から下は老化による変化を感じやすい部位です。他にも、人中が力なく伸びたり唇の形態にも変化が現れます。
唇の形
美しい口元であれば若いころの唇は立体感があり鼻の下の人中(鼻の下の溝のこと)も明瞭で、いわゆるキューピッドボウ(天使の弓)状になっています。それに対して老化した口元は、人中が薄くなりのっぺりとした感じになります。上唇のキューピッドボウの凹凸がなくなり、唇を引き上げる表情筋や弾性繊維の衰えから重力に対抗しきれず鼻の下や上唇、下唇ともに垂れていきますし、口角も下がる傾向にあります。
また、経年的な奥歯の摩耗や歯を失うと、咬み合わせの高さが減少し、下顔面がつぶれたようになり唇が横にのびてきます。
口元の老化対策と治療法
皮膚の老化と同様に唇も紫外線による光老化でシワが増えるのを抑えるため日傘やつば付帽子の着用、日焼け止め効果のある口紅の活用も有効だと考えます。また、活性酸素を抑えたりコラーゲン産生にも有効なビタミンCを積極的に摂取することも唇の老化対策に良いと思います。
当院では特に口ゴボの矯正治療の一環として行っているボタンプル法で口輪筋や挙筋筋群などの表情筋を鍛えることは口元を引き締める効果があり、顔のたるみ改善が期待できます。2013年の日本矯正歯科学会で拝見したポスター発表では口輪筋トレーニングをやめると1週間程度で元の筋力に戻ってしまうと報告しているものもありましたので、なるべく長く継続して行うことをお勧めします。